介護マガジン

はじめての介護

もしも家族が認知症になったら その2

筆者 川上氏のコメント

前回の9月号に引き続き、今月は元気なうちから知っていてほしい認知症に関する基礎知識や情報をお伝えいたします。
また、前回コンサルティングで登場していただいた夏子さん、お母様の花子さんの事例を交えて、今回もお伝えします。
“何だかおかしい?”と感じる状態を正しく理解することにより、認知症の高齢者、その人の世界を理解して接することができます。

 

■認知症の主な症状

認知症の症状には誰にでも必ず見られる「中核症状」と、それに伴って起こる「周辺症状」に分けられます。

中核症状は「記憶障害」「見当識障害」「理解力、判断力の低下」「実行力障害」などで誰にでも見られる症状です。見当識障害では今がいつなのか、ここはどこなのか、わからなくなります。実行力障害は長い間行っていた買い物や調理ができないといった状態です。 周辺症状、随伴症状は中核症状により生活上の困難に上手く適応できない場合に本人の性格や素質、環境、身体的要因、心理状態などが加わって起こる症状で、症状の出方は個人差があり、怒りっぽくなったり、異常な行動が見られたりします。これらの症状は認知症であれば誰にでも見られる症状ではありません(表A参照)。

また、アルツハイマー病と脳血管型認知症、レビー小体など認知症の種類によっても症状の出方は異なります。例えば脳血管性の認知症ではアルツハイマー型認知症に比べ意欲や気力の低下が激しい、飲み込みの障害、歩行障害など身体症状が出やすい、などが特徴です。症状にあわせてサポートの仕方も異なってきます。

最近では認知症の高齢者のケア体験などがよく報道されるようになりましたが、知人の体験や人から耳にした徘徊や攻撃的行動などを、認知症の全ての方にあてはまる症状と考えないようにご注意ください。また、これらの症状に認知症の高齢者をあてはめて分類しても意味がありません。むしろなぜ起こっているのか、症状の原因を考えることが最も大事なことです。例えば夕方になると始まる徘徊も、無意味な行動ではなく、娘時代に過ごした両親のいる故郷の自宅に帰ろうとしているのかもしれません。一人ひとりの行動にそれぞれの原因があります。


認知症の主な症状
表A:認知症の主な症状

 

■異なる認知症の経過

認知症の経過はさまざまです。アルツハイマー型認知症では穏やかに発症し徐々に進行していきます。
軽度の時期には物忘れのため仕事や家事の能率が低下し、日付や時間の感覚が曖昧になります。重度の状態では同居している家族の顔がわからなくなったり、日常生活の多くの場面で介助が必要となってしまいます。これと比較し、脳血管性認知症は発作が起こるたびに認知症の症状が進行します。再発作予防という日常の健康管理が大切です。


お母様・花子さんの症状(認知症と診断される前の実際の症状です)

物忘れ

・きれい好きだった母が夜、歯磨きを忘れる。
・半年以上も美容院に行ってなかった。
・使用後のトイレを流すことを忘れる。
・詐欺師にお金をとられた記憶がない。
・お金をおろしに行った記憶がない。
・孫との話中に同じことを何度も繰り返し聴く。


自分で判断できない

・財布の中の小銭があふれかえっていた(計算できないため札を出して釣りを受け取っていた)。
・夏用の衣類と冬用の衣類の区別がつかない。
・見慣れた道で迷子になるが、こんな道を通るのは初めてだからと弁解をする。
・冷蔵庫の使い分けができない(要冷凍食品やアイスクリームを冷蔵室に、など)。


機械類を使用できない

・今まで使っていたCDの使い方を忘れてしまった。好きな音楽を聴かなくなった。
・かかってきた携帯電話を手にとってみつめたまま耳にあてることができない。
・携帯ラジオの使い方がわからない。


積極性がなくなった

・好きだった料理ができなくなった。味噌汁すら作らない。
・家計簿をつけない。年賀状を書かない。
・自分から風呂に入ろうとしない。


変わらない部分

・自分で自分の状況をある程度は把握している。
  「自分がおかしいから人とは会いたくない」
  「去年までできていたことが、どうしてこんなにできなくなってしまったのだろう。情けなくて悔しい」
・子供や孫にお土産をあげる習慣は変わらない。

 

■認知症の対応 間違えやすい症状

認知症を早期に診断できると適切な対応がとれます。認知症を治療する特効薬はありませんが、症状を緩和させ、進行を抑えることができる薬が使われています。「アリセプト」(エーザイ)という薬で、脳の神経伝達物質であるアセチルコリンの量を増す働きをします。この薬は初期から中期の段階で内服を開始することにより症状改善の効果がありますから、なるべく早期に内服を開始することが必要です。根本的治療薬の10年以内の開発、実用化が目標とされています。

また、認知症と間違えやすい症状もあります。高齢期に起こりやすいうつ病は感情の病気で、抗うつ剤による治療が必要になります。栄養不足、薬の乱用や副作用などが原因で適切な対応により改善するケースもあります。水分や食事の不足は何となくぼーっとした状態を招くので注意が必要です。

高齢期には身体の不調や不眠に対して薬に依存してしまいがちです。また様々な病気での通院で薬の種類が増えることもあります。受診時には現在服用中の薬を医師に伝える、薬の内服状況は時折確認する、一度服薬状況を見直してみてください。これも高齢期の大切なケアのコツです。

 

■受診に困った時には

認知症の場合は、親から病院で受診することを拒否されることが多いと思いますが「脳の健康診断に行ってみましょう」と誘ってみたり、精神科ではなく物忘れ外来を受診するなどの工夫もできます。まずはお近くの地域包括支援センターに相談してみましょう。また、地域に相談しにくい場合には電話相談も利用することができます。

※社団法人認知症の人と家族の会 http://www.alzheimer.or.jp/jp/index.html
認知症の電話相談110番により介護の経験者が必要な情報や知恵を提供してくれます。
0120-294-456(月~金 土日を除く10時~15時)
※日本老年精神医学会のホームページから各都道府県の認知症を専門に診断できる専門医と専門医が在籍している施設を検索することができます。

日本老年精神医学会 http://www.yume-net.ne.jp/dome/rounen/index.htm
親の変化には誰もが戸惑い、そんなはずないと否定したい気持ちになりますが、状況を隠そうとして家族だけで抱えてしまう、症状を見ないふりをしてやりすごす、こんな状況では数年後に問題が大きくなってしまうことも知っていてほしいと思います。
認知症の症状はある日突然に認知症になるのではなく、何らかのサインがあります。初期の認知症の高齢者に自覚がない、というのは大きな間違いです。何だか自分がおかしいと感じている不安や苦痛をできるだけ良い方法で対応していきましょう。

 

■その後のコンサルティングの経過 ~認知症の介護は環境に配慮しましょう

夏子さんのその後についてお伝えしましょう。お母様の花子さんは介護保険在宅サービスを活用し、ホームヘルパーさんに買い物、掃除などサポートを開始、夏子さんの訪問頻度も上げながら見守り態勢を強化して過ごしました。
同時に住まいの環境の検討です。住み慣れた地域でのグループホーム、介護付き有料老人ホーム等を探すと、民間会社運営の有料老人ホームが近所にあって、認知症のフロアを持つユニットケアを行っていることがわかりました。夏子さんとお母様はさっそく早速見学され、思っていた以上に明るいホームの環境、温かいスタッフに驚き、体験入居を経て1年間の短期設定で入居を申し込みました。その後、ホームの人間関係など環境に慣れたところで住んでいたご自宅を処分し終身の入居契約に移行しました。

私の勤めているケアデザイプラザにも親子で観劇の際にお立ちよりくださいましたが、花子さんは藤色のスーツに身を包み素敵におしゃれをしていらっしゃいました。「私は自分が人の手を借りるようになったら、施設にお世話になることは決めていましたからね。お友達もでき、今は1人で過ごしていた時よりも安心です。」と、明るい表情と会話に私も安堵しました。ご家族も休日はホームにボランティアにお出かけになっています。家族とホームの専門スタッフによりお母様は守られて活き活きとされていました。
ご相談に見えた2年前から花子さんを取り巻く環境は大きく変わっていました。夏子さんも花子さんも前向きにこの時期を乗り越えられました。

早めの受診<医療の適切な対応>そして介護保険制度を活用しながら体制を整える<介護体制の整備>。何よりも花子さんに学んだことは自分自身の将来のもしも…ということも考えていたことです。生きていれば様々な変化に遭遇します。不安や哀しみ、孤独を抱えた時にごまかすのか否定するのか、しがみつくのか、それとも現実を見つめてできる限りのベストを尽くし、その中でもサポートを受けながら自分らしさを探していくのか。花子さんの生きる姿勢は強く印象に残りました。様々なご相談を通じて私達も自分自身の生き方を問われています。

もしも皆さんの周囲で家族の認知症でお困りの様子の方がいたら、声をかけてあげてみてください。ひとりで抱え込まないように話を聴いてあげるだけでも気持ちがすっと楽になります。そして、家族や身近な人に変化が起こった時にはどうか逃げないで早めに前向きに対応を考えられますように。

 

  • 霧の峠を抜けると日本一の木の生産地・津別町
    霧の峠を抜けると日本一の
    木の生産地・津別町
    道端に車をとめて見上げた空、
    季節は晩夏でした

風も陽射しも秋の色、街が少しずつ色づき始め、道を歩いていると時折、金木犀のよい香りがしてきます。
夏が終わる頃、いつもの行動範囲を離れ太平洋側の釧路からオホーツク海の網走に抜けるという冒険の旅をしてきました。釧路川の源流に沿いながら草原や峠を走り抜け、途中気に入った湖、森の中、半島を歩いてやわらかい大地を踏み、大きな樹にたくさん抱きついてきました。初めて目にする広大な風景と新鮮で透明な空気、針葉樹のさわやかな香りと葉のそよぐ音、素足から伝わる清流の冷たさ、川の底で静かに流され長い間に角のとれた丸い石ころたち、森の生活者であるエゾシカやキタキツネとの遭遇…。小さくなっていた気持ちがふわ~っと広がってゆくのを感じます。

毎日の小さな世界にいると壁にぶつかって苦しくなる時があります。人生はなかなか思うように進みません。介護や医療の現状に、理不尽な状況に、家族の思いの切なさに、そして人間の生老病死に、辛くなってしまうことも決して少なくはありません。それでも、生きている人が好きで心が大事だからあきらめない。心という根っこは永遠のテーマであり難題あり、せっせと息を吹きかけては磨いている希望です。
森の中では大きな樹をみつけて抱きつきます。言葉を語らない樹木から強い生命力を感じていると何とも言えない安堵感が生まれてきます。太陽は光とエネルギーを時に強く、時にやさしく与えてくれます。夜空からはやさしい月の光が注ぎます。星の輝きは今逢えない人たちの顔を思い出させてくれます。手の届かない宇宙の輝く星は、実は自分の中に輝くものです。誰もが自分の星を自分の内に持っています。

  • お気に入りの1本
    お気に入りの1本

さて、旅には必ず1冊のお気に入りの本をかばんに詰めて出かけます。

わたしたちは、氷砂糖をほしいくらゐもたないでも、
きれいにすきとほった風を食べ、
桃いろのうつくしい朝の日光を飲むことができます。
またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、
いちばんすばらしいびろうどや羅紗や、宝石いりのきものに、
かはってゐるのをたびたび見ました。
わたくしは、さういふきれいなたべものやきものをすきです。

宮澤賢治のイ-ハト-ブ童話集「注文の多い料理店」の序文より


自然や精神世界との交信能力を持っていたと思われる宮沢賢治。畑を耕し、農業を教え、音楽を愛し自らもチェロを弾きました。35歳という若さでこの世を去りましたが、残した作品は多くの人に影響を与えています。妹の死や自身の体の弱さも作品に大きな影響を残したと言われています。私の大好きな人のひとりです。
1冊の本はこれもまた身近な旅でもあります。やさしいお月さまの光の下で五感を開放しながら好きな言葉を繰り返し繰り返し読んでみてはいかがでしょうか。
ケアしている皆様、懸命に働いている皆さま。風邪に負けない健康な体づくりとともに、自分の時間を創る工夫をしながら心開く秋をお過ごしください。