
高齢期の暮らしに関わる相談と正しい情報、知識、そして想いを伝えるセミナー作り
今月は私の日々のお仕事の、風景のひとつをお伝えします。
私は現在六本木にある東京ミッドタウンの7F「ケアデザインプラザ」で、高齢期の暮らしに関する相談をうかがっています。ケアデザインプラザの立ち上げに声をかけていただき、入社して今月でちょうど11年目を迎えます。開設当初は東京・世田谷区にある二子玉川の玉川高島屋のショッピングセンター内にありました。「川上さんは相談業務の責任者として相談体制を作ってください。」医療現場での経験が中心だった私にできるのだろうか、やる気はあっても自信はありません。緊張状態の中、この仕事を受けました。高齢期の暮らしをサポートする幅広い相談スタイル『ケアデザインサポート』はコンサルティングの体験を繰り返しながら、試行錯誤で開発していきました。医療や介護を縦割りではなく広い視野でとらえ、サポートさせていただいています。その必要性を感じさせてくれたのは目の前の相談に訪れる方々の切実な声でした。

コンサルティングの風景
ここでは介護や医療の現場とは少し異なった空気が流れています。対等な目線でのサービス提供の姿勢が必要です。そして、専門的知識の前に接遇マナーや人としての姿勢を問われます。医療や介護の現場と共通して大切なことは“相手のニーズをつかむこと”。一方的な押しつけではなく、今相手が何を望んでいるのかを感じる感性、自分自身が体験したことがないことに身をおける感性は、臨床現場でコツコツと積み重ねてきたものが活かされ、必要とされる場所でもあります。
相談対応の範囲が広いため、日々の情報収集力や調査力など自己研鑽が常に求められます。特に高齢者の住まいに関するニーズは近年大きく変化し、様々なサービスが開発されています。住まい提供の現場視察や各専門家の講演などには積極的に参加しています。引き出しを一段一段準備しておくと、問題を抱えている方が見えた時に必要な引き出しをさっと開けて、それらをデザインし提案することができます。引き出しの中身は整理や入れ替えが常に必要です。それぞれの得意分野、強みを持った仲間は私が信頼し協力し合える同志。共に力を合わせてノウハウを開発し、日々の顧客サポートに取り組んでいます。

2009.11セミナー風景
人生とは面白いもので、きちんと試練を与えられます。私は人前で話すのは大の苦手でした。きっと誰よりも苦手だったと思います。にも関わらず、5年前頃よりセミナーの機会が与えられ始めました。
「川上さんは自分の中に持っているものがたくさんあるんだから、外に出して伝えたほうが良いよ。100年残る価値のあるものを目指そうね。」
心の広い上司の恐怖の言葉でしたが、その上司の瞳は澄んでいました。ちょうどその頃、私自身も相談を受けているだけでは解決できない問題に気がつき始めます。介護は暮らしの延長です。長寿高齢社会の日本、誰にとっても特別なことではないし、どう歳を重ねるかは共通して大切なことなのに、見たくないもの近づきたくないものとして考えられています。“知らない”ということだけで人生が大きく変わってしまう、その様子を目の前で見続けました。
“人生はもう1回はない。失敗を恐れないで伝えたい想いを一生懸命伝えよう”
失敗や反省を繰り返しながら、高齢期の暮らしに役立つ情報や知恵をなるべくわかりやすくお伝えさせていただいています。情報や知識だけではなく心を伝えるセミナーであるように心がけています。正しい情報や知恵を明るくわかりやすく伝えるのは、シンプルなことですがとても難しい。臨床現場とは異なった、これもひとつのケアの方法です。ナースキャップをつけて薬や医療技術の提供はしませんが、言葉や文字を使ってケアの仕事をしています。セミナーはその人そのものが現れ日々の心の有り様が現れます。

完成した配布資料
季節の写真を必ず1枚いれ
みなさまのお手元に届きます
セミナーを作っているとスタッフに「職人さんのようですね。」とよく言われます。白いノートにフリーハンドで頭の中、心の中を外に出して描き始めます。まるでマインドマップのようです。構成が整い最終的にはパワーポイントの映像に繋がります。その間、多くの客観的な統計データを探したり最新の動向を調べたり、視察やヒアリングと大忙しです。若いスタッフがテキパキとデータ探しや確認など手伝いをしてくれます。近年はパワーポイント資料作りに優れたスタッフも協力してくれるようになり、彼の優しさもデザインや色に現れ、講演の日には映像、資料となります。
先日、調布市で75名ほどの参加者に「もしも介護が必要になったら お金のこと住まいのこと」と題したセミナーを行わせていただきました。70代前後の参加者は真剣な眼差しで1時間以上に及ぶセミナーを聴いてくださいました。重要なポイントを繰り返すとペンを走らせています。その熱意にこちらも驚き、身が引き締まります。
セミナー終了後には質問や自分の想いを話してくださる方がいます。
「漠然としていたことが見えてきました。セミナーの資料を妻にも見せて自分達のできることを少しづつやってみようと思います。」
「今日帰宅したら郷里の親に電話してみようと思います。」
こんな感想をいただきます。
ある男性からぜひ読んでほしいと1枚のお便りをいただきましたので、そのお便りをご紹介させていただきます。
多摩市にお住まいの水野さんからのお便りです。
私は80歳になろうとしていますが、いままで親やつれあいの介護をしたことはありません。時々親の見舞いに行き介護状態や死に際には立ち合った記憶がよみがえると、人は介護をしたことがなくても、必ず介護されることに気づきました。誰しもピンピンコロリを望みますが、80代でも平均2年ほど介護期間があるようです。
それを身近に感じるようになったのは、2年前に大腸がんの手術をし、健康はいつ崩れるかわからないと思うようになったからです。
介護状態は前から来なくて、後ろから突然肩をたたかれることが多いと言われます。その時本人はもちろん、家族もどう対処したら良いかわからないまま慌てることでしょう。
自分が介護状態になることを想像するのは決して楽しいことではありません。でも、生老病死から逃れることはできません。そこで介護保険を勉強する気になりました。介護保険料は2000年から10年間払っていますが、いくら払ったかも知らないし、介護保険サービスについて全く知りませんでした。
勉強するうちに高齢者福祉について、公助のほかに、共助のいろいろな介護保険サービスを活用すれば、つれあいや子供たちの介護負担を軽くすることも可能だし、自助自立の道を探ることもできると思いました。
幸せな人生を全うするためには、それなりの準備が必要だと思います。しなやかに生きるための転ばぬ先の杖です。介護保険を正しく知れば知るほど介護予防の大切さを実感するようになり、今まで以上に実行するようになり毎日1時間半歩いています。
水野さんは地域で積極的にセミナーの企画などをなさっているようです。
前向きに生きようとされている姿勢が伝わってくるお便りは心に響きますね。自分の想いや感じていることをまっすぐに見つめ、伝えることはなかなか難しいものです。水野さん、ますますお元気でお過ごしください。ありがとうございました。
人間の脳は大きな壁に挑み、乗り越えると“ドーパミン”が出て成長すると言われています。振り返ってみると私は、“私にできるはずがない”と苦手なことから逃げようとしました。でも気持ちを切り替え前向きに臨んだ途端、風向きが変わりました。偶然にも講演を依頼してくれる団体や人が現れ、周囲の支援に恵まれ、試練が絶えることなく続きました。いつの間にかセミナーを聴いてくださった方から思いがけぬ声をいただく機会が増えました。誰かの役に立てた瞬間に疲れは吹っ飛んでしまいます。人が最も喜びを感じるのは思わぬことを発見したり、今までよりも一歩階段を上がった風景の視野を得ることだと思います。ほんの一歩でも大きな一歩で、上がった時には感じたことのない爽やかな風が吹きます。“人生はあれこれとやってみること”、“痛い目に遭いながら失敗して転んでも、またすくっと立ち上がって前に進んでいくこと”、そして“心の底から願うこと”が大切です。困難の連続である人生でも“自分の人生を大切にしてほしい”これが私の強い願い、私自身を動かしている情熱の火でもあります。今こうしていてもどこかで痛みや孤独を感じている人、寒さを感じて震えている人がたくさんいます。私はこれからどこでどんな“ケア”をしているかわかりませんが、間違いなく言えることは、地域にも日本にも地球にも、新しい知恵と優しさが求められています。ケアの仕事に感謝しながらひとつひとつ丁寧に、これからも続けていきます。

伊豆半島から昇る
2010年の朝の始まりです
6時54分 静岡市、蒲原の浜より
今日は私の職場の一風景を皆さんにお伝えいたしました。最近では介護や高齢期の暮らしに関する相談やセミナーが身近なところで受けられるようになりました。毎日の暮らしは小さな範囲が原点ですが、そこだけを見ていると抜け道が見つからない時もあります。介護中は時間が取りにくく辛いところですが、時にはノートとペンを持って思いきって出かけてみてはいかがでしょうか。自分だけでは気がつかないヒントや工夫が得られ、気持ちがすっと楽になります。講師も皆それぞれの情熱でみなさんに大切なことを伝えようとしています。
今年もみなさんのそれぞれのケアを、心より応援いたしております。