
■ケアプランと介護サービスの利用 実例その1
咲いている花はいつも太陽の方にその顔を向けています。歳を重ねながら肉体という器を使いこなしていくと、少し欠けたり壊れたりと調子の悪いところが目立ち始め、戸惑いや不安を感じる機会が多くなりがちです。そんな時、気持ちも暗い方向を見てしまいがちです。それでも私たちはあきらめずに明るい光に顔を向け、希望を持ち続けてゆきたいものです。光の方向へ顔を向けること、望むこと、楽しむこと、あきらめないこと、それを手伝ってくれるのがケアする人、支える人でもあります。ケアマネジャーは在宅介護の強い味方です。

太陽にむかっている花
私たちも明るい光の方向へ顔をむけましょう
Photo by KEN_yokohama
年が明けて大寒迫る1月の昼下がり、燦々と陽の差し込む川上家リビングにちょっと珍しいお客様がみえました。両親の介護生活が始まってから1年半の月日が経ちました。そんな我が家にもいよいよケアマネジャーがやってきましたので、今月はそのお話をお伝えします。
“介護保険サービスの利用を拒み、家族だけに負担がかかっていて困っています”というご相談を受けることがしばしばありました。日本の要介護高齢者は2000年の218万人から2008年455万人と増加しています。とはいえ、要介護認定を受けてからすぐに介護サービスを導入する人はそう多くないのではないでしょうか。
人のお世話をしてきた人がお世話される立場になるということ、そこには大きな心理的バリアが生じ、簡単なことではありません。私たちは、風邪をひいたりお肌が荒れたりしただけでも気分が萎えてしまう生き物です。ましてや介護を受けなければ生活ができない状態の自分に、混乱や戸惑いのない人などいません。介護者にとっても“他人に頼むなんて”という罪悪感を抱えてしまう人も多いのではないでしょうか。何とか家族の力だけで乗り越えようとします。
郷里の暮らしでも同じような状況が展開し、サービスの活用がなかなかできないでいました。人の考えもペースも人生も様々で計画通りに事は運びません。東京での仕事をこなしながらも、郷里の母にじわじわと負担がかかっている今の両親の状況に、焦る気持ちを抱えていました。自分自身が笑顔を失いかけると“私がイライラしても仕方ない、しばらくは親の気持ちに無理することなく寄り添いながらサポートして導入のチャンスを待とう”そう思い直しては元気を持って東京から静岡へ足を運び続けていたのです。
季節は秋から静かな冬へ、寒がりの父は活動範囲がさらに狭くなり、まるで冬眠しているかのよう。お気に入りのソファであたたかいセーターを着て、父は日中もテレビをつけたままよく瞳を閉じています。脳もからだも穏やかにまったりとしています。母も風邪をひかれたら大変と、この範囲の生活に慣れてしまっています。時折足を運ぶパーティーなどへの参加も車いすです。
この光景、素人の方であれば84歳の高齢者に何が悪いの?そう思うかもしれません。もちろん静かな生活を過ごせるのは、頑張り続けてきた高齢者に与えられるご褒美の1つでもあると私も思います。それでもこれはまずいのです。父は歩ける機能を、人を包みこむ笑顔を持っています。
<シニアライフの3原則>
●自己決定権・・・選択する力を持ち続ける
●残存能力の活用…役割を持ちしたいこと、生き甲斐の継続
●生活の継続性…環境を不連続にしない
人は“体や心を動かす環境”を失ってはいけないのです。要介護2から1へと改善を示した父は幸い、室内でのADL(日常の生活動作)は見守る程度のサポートで済んでいます。精神的にも穏やかで落ち着いています。しかし、外出の機会が減少し、2週間一歩も外に出ないという日もあります。外に出れば外気を吸いこみ、今日のお天気を感じることができます。父の好きな富士山や伊豆半島の山並みや碧い海をぐるりと見渡すことができます。何よりも自分の足で立ち、一歩一歩と大地を踏みしめることができます。そこに町があり人がいて会話する、笑い合う、というシンプルで大切なことを生きている限り、続けてほしいと願います。
まだまだできることがたくさんある父と母です。そのためには努力や頑張りではなく、プライドを保ちながらちょっと楽しい暮らしの習慣にすることがコツなのですが…。
■サービスの導入は困った時がタイミング それには親のニーズを知ることが大切です
ちょうどその頃、これまで元気だった母の体調が少し乱れ始めました。はじめての手術や検査、視力の変化、自分のことでもあれこれ忙しい日々です。前向きで愛情豊かな母は、夫の介護に24時間一生懸命、それゆえに介護の疲労も少しずつ表れてきています。大切な家族だからこそ「介護を続けるためにも上手にサービスを使おうよ。」そう言い続ける娘。「まだ大丈夫よ。何とかなるわ。」このやりとりが続いていました。
晩秋、通院介助中に母が倒れてしまいました。母の口から気弱な言葉が聞かれ始めました。同じ頃に医師会仲間の医師から「奥さん、サービスを上手に使ってくださいよ。今は色々なサービスがあるようですし、何でも自分でやっていたら疲れますからね。だめですよ。」こんなありがたい声も母の背中を押してくれたようです(娘の声はもはや空気状態でしたから同じことを何度言っても素通り状態。)。介護者の“疲労や困った”は大事なサインです。何よりも母自身が“このままでは続かない”と感じ始めたようでした。
■目標は転倒予防しながら歩行機能の維持・向上、毎日の暮らしの活性化
私がケアプランにお願いしたこと
「自宅にリハビリにきてもらえる在宅サービスがあるのよ。訪問看護のリハビリというサービスで週に1回リハビリの専門家にトレーニングを受けてみようよ。長嶋さんみたいでかっこいいね」
やはり“介護”には精神的な抵抗があるけれど“医療”には受け入れの余裕があります。父は大の巨人、長嶋茂雄ファンです。要介護高齢者が多く過ごすデイサービスやデイケアでの集団リハビリやアクティビティは父にはまだまだ導入は難しいサービスです。地域にこの訪問リハビリができるサービスがあることを調べていた私はこんな方法、言葉ですすめてみました。まずは訪問リハビリでサービスに慣れ、春になったら事業所に通うリハビリに移行することができます。きょとんとした顔をしています。「そうしたらきっと新緑の春には、またゴルフに行けるかもよ!」これには反応がありました。「いいね~。」父の笑顔、母の明るい顔、2人の顔がぐっと上がり光りの方向をみました。
早速、父と20年以上に渡り仕事を共にしてきた町の保健福祉センターの保健師Iさんを訪ね相談。そこで紹介してくれた地域の高齢福祉、介護保険に精通した30代男性ケアマネジャーMさんに担当を依頼し、快く引き受けていただくことができました。地域医療を支えてきた町のお医者さんだった父の元気な姿ももちろん良く知っています。「それは心配ですね。何とかしましょう。」年末の忙しい時期に私の話を2人は真剣に耳を傾けてくれました。「聴いてくれて嬉しかった。本当にありがとう。」私の気持ちがすっと緩みました。なんて心強いのでしょう。心優しいケアのプロである2人に感謝の気持ちを伝えます。
高齢期、簡単に機能は低下しますが、工夫することで向上もします。生活の質は下げない!生活の中に介護が必要となったとしても、両親の暮らしがこれまでと違った形で豊かになることを私は知っています。介護のある暮らしをデザインする。私はこの日、大切な時間を経て緩やかに次のステップを踏むことができたように感じました。
図:介護保険で利用できる便利な在宅サービス・訪問看護・訪問リハビリ
※画像をクリックするとPDFファイルが表示されます。プリントアウトしてご利用ください。
図:ケアデザインプラザ「よみっきりマニュアル 在宅サービスより引用」
このように川上家のケースでは、私自身に知識や情報やアイデアがあったために最初になりたい方向、そのために利用したいサービスを検討し、ケアマネジャーに相談、依頼という方法をとりましたが、そんなことをあれこれ考えているとなかなか依頼もできません。要介護認定結果が手元に届いたらケアマネジャーの事業所を選択しケアマネジャーにケアプラン作成を依頼する。ケアプランの目標に沿って利用するサービスをケアマネジャーと共に選択する。この流れが一般的なケースです。まずは市区町村の窓口に、地域包括支援センターに話してみることから始めましょう。そこから流れが生まれてきます。日頃からどんなサービスがあるのか知っておくことも大切です(はじめての介護2009年2月「どんなサービスが利用できる?」をご参照ください)。
■自分の親を支える
先日、福祉介護職の達人である友人とゆっくりお酒を飲みながら話す機会がありました。彼は自分の母のこと、私も自分の両親のことを語り「あ~だめだめ、自分のことは別物だね~」。私たちも1人の子としてできることもできないこともあり、そのことを噛みしめます。嬉しさと哀しさと感動のような気持ちが相俟って笑いながら涙がうっすら滲みます。今、当事者として直面し、支える家族側の緊張や戸惑いを素直に開放した時間です。
ケアの仕事に従事しながら家族のケアを行っている方にとっては、今回のお話は身近に感じてくださる方がいらっしゃるかもしれません。自分の家族、自分のケアは仕事のようには流れませんが専門職だからこそ顕在化していない問題がよく見えてしまいます。だからこそ第3者である専門家が家族とは違う目で家庭の中に入ることに大きな意味があります。

やさしい桃色の紅梅
こんな色をみていると心もほんわりと
やさしい色になるように感じます。
今回は私のはじめての介護のお話でした。介護は10人いれば10通り、それぞれ異なります。私の体験している上手くいったこと、いかなかったことが、皆さまの暮らしのお役にたてることが少しでもありましたら幸いです。お読みいただきありがとうございました。
この続き、ケアマネジャーのMさんとの契約、ケアプラン作成の過程、実際のサービス利用の様子についてはまた来月お伝えいたします。
今月の美しい写真は、“KEN's Home”の大澤憲さんが撮影されたものです。
多才な大澤さんは経営コンサルタント兼フォトグラファーとしてご活躍中です。
デジブック「命の詩」:さわやかな音楽が流れる中、植物、水、昆虫、鳥が生き生きと美しく映し出されます。
鳥好きな私は青い「カワセミの物語」もお気に入りです。自然の生んだ命に、色に感謝し心が洗われます。
外にでかけられない、ベットから動けない、そんな日にはこんな方法で植物や大地の生き物の呼吸を感じてみることも良い方法ですね。
・「命の詩」http://www.digibook.net/d/87d5c933a15b92c12ddb6ab2b246c984/
・“KEN's Home”http://ken9821.web.fc2.com/KENs_Home.htm
「出張撮影・写真レッスン・写真修復。画像編集等」