前々回は介護保険で利用できる福祉用具についてご説明させていただきました。今月はその福祉用具を揃える時に注意していただきたいことをお伝えいたします。
「病院から退院を迫られ準備をしなくてはならない」「突然転倒して歩行が不安定になった」そんな時は誰もが慌てて介護用品の購入に走りがちです。以前、二子玉川の玉川高島屋S・C内ケアデザインプラザではそんなお客様に遭遇することがよくありました。(注:現在ケアデザインプラザでは商品の販売は行っていません)。例えば「リハビリ中の母が来週退院するので急ぎで車いすが必要です。購入したいのですが…」。車いすは“座る”“移動する”という2つの機能を兼ね備え、私達の足の代わりになる大切な役割を持つ用品です。選ぶ際には、からだの機能、住環境、介護者の能力など総合的な視点が必要です。また車いすには様々な種類、機能があります。使用目的によっては室内用、外出用、コンパクトに折りたためて旅行などに役立つ携帯用。利用者の状態によって自分で移動ができる自走用、自分では移動ができない車輪の小さな介助用、長距離の移動も可能な電動用。また、乗り心地を快適にするために、姿勢保持機能やクッション性も重要な視点です。廊下幅などお住まいの住環境との適合性にも考慮します。このように使用する目的、場所、使う人のからだの機能というニーズにあわせた選定が必要です。
そこで、慌てて購入するのではなく、まずは“一般のレンタルでご利用”→“要介護認定を受ける”→“結果が出てからケアマネジャーに相談し、からだにフィットしたものを選定し、介護保険レンタルを行う”と段階を追いながら上手に活用することも可能です。介護保険のレンタルを利用すれば、例えば商品価格約10万円の車いすは毎月の利用料が1,000円前後ですみます。最終的に状態が安定して長期に車いす利用が必要となった時点で、ニーズに合った車いすをじっくり選定し購入することも、レンタルを続けることも選択可能です。
皆さん、この方法をご案内させていただくと驚きますが、その情報を基にどのような方法で入手されるかをご検討されます。それでも至急必要な方は納得された上で慎重に購入されます。
からだの状態や生活の状況は変化します。在宅介護の準備は目先の解決だけではなく、からだの状態が変化することを考慮して準備する視点が大切です。緊急で車いすが必要な時にはお住まいの市区町村や社会福祉協議会で貸し出しをしている場合もありますので、まずは地域包括支援センターや市区町村の窓口にお問い合わせください。車いすに限らず高額な電動ベッドなども同様です。福祉用具は介護生活の心強い味方。慌ててしまい、からだに合わない福祉用具を価格やデザインだけで購入してしまう失敗がないようにご注意ください。
表 車いすを選ぶ時のポイント
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ケース紹介~車いすを贈り物に~
車いすを親にプレゼントにしたいという方もいらっしゃいました。50代の会社員から神奈川県にお住まいの80歳のお父様Aさんへのプレゼントのご依頼です。
早速ご本人様のお身体の状態や住環境からアセスメントが必要です。ニーズにあった車いすの選定のために、ご自宅に訪問させていただきました。現在Aさんにとって車いす利用が必要なのは、体調不良時のみですが、日常の歩行もやや不安定で杖をご利用です。しかし、上肢の機能に障害はなく判断力も十分、操作能力は十分にある方です。長く大学教授をされていたという紳士的なAさんは、80歳と高齢であっても屋内は自分の意思で移動したいというお気持ちをお持ちでした。
Aさんには安定した自走用のタイプで姿勢保持機能が高い車いすを選定させていただきました。自走用の車いすは自分でハンドリムを回しながらキッチンへ、窓辺へ、寝室へと移動することができます。色は明るいグリーンをご本人とご家族が選ばれました。最終的にはAさんにぴったりの車いすに仕上がったようで、動くことに前向きなAさんになんだかこちらも気持が明るくなります。Aさんと介護者の奥様にも操作方法、介助のコツ、注意事項などをご説明させていただきます。
そんな時にもっとも注意していることは専門的な選定と共に、車いすを利用しなければならなくなってしまった方の心理面への配慮です。Aさんは訪問の間中私への気遣いをしてくださっていましたが、杖や車いすなどを利用しなければならなくなったAさんの心の中には伝えることのできない様々な思いがあったことでしょう。
ご自宅のお庭には梅の花が咲いていました。車いすに乗っても生活の幅は広がります。「お庭でも安心して使える車いすにしましょうね」。Aさんは遠くへの外出ができなくなったのでお庭を眺めて過ごすことが楽しみとのことでした。ご自宅のお庭の樹木や花や実は、きっと季節の巡りを感じさせてくれているでしょう。
車いすが届いてからしばらくたったある日、ご家族からご連絡をいただきました。「川上さんが訪問してくれた日から親父がずいぶん元気になって驚きましたよ。時々あの車いすのお世話になっていますが訪問してくれた日がよっぽど楽しかったのか、嬉しそうにその日の様子を話してくれます。良いプレゼントができてこちらも良かったです。ありがとう」。今思えば一生懸命になっている私を、Aさんご夫妻はあたたかい眼差しで見守っていてくれていたように思います。それから数年後にAさんは永眠されましたが、ご家族からのあたたかい贈り物のお手伝いに関わらせていただいた思い出となりました。関わる時間は短くても一緒に暮らしをみつめ、その人らしい暮らしの継続のためのお手伝いをさせていただく。私たちの大切にしている仕事です。
POINT 1 からだの状態にあったものを選ぶ POINT 2 専門家に相談する POINT 3 情報を集める 実際に使って体感する POINT 4 生活介護用品(モノ)、リフォーム(ハード)やサービス(ヒト)の3点から総合的に必要な用品を選ぶ
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介護保険対象の福祉用具以外にも便利な介護生活用品がたくさんあります。例えば毎日の暮らしを覗いてみましょう。スムーズな移動のために、排泄を気持ちよく、安全な入浴、食事をおいしく楽しく、心地よい休息、睡眠のために、コミュ二ケ-ション機器、在宅リハビリ、安心な衣類、セルフケアヒーリングなど様々なシーンで役立つ介護生活用品があります。
具体的には1本杖(ステッキ)やすべりにくいシューズ、オムツ、衣類(肌着や衣類)、介護ダイアリーや薬ケース、介護食品などはレンタルや購入費の対象とはならない商品です。日頃からお近くの介護ショップやWebなどで情報をキャッチしておきましょう。

ベランダのフロッカス
5月、風薫る爽やかな季節を迎えました。冬の間じっくりと力をためこんでいた植物や、大地も、活動をはじめています。勤務先のミッドタウンでの広い庭では、今、ツツジやフジなどの色鮮やかな花が嬉しそうに咲き乱れ、いい香りで私たちを和ませてくれています。
週末、やさしい風に誘われてベランダの鉢に種を蒔きました。冬の間大事に保管していたフラックスの種です。フラックスは古代エジプト時代より栽培されているハーブ。別名亜麻で茎は麻の材料となります。リネン好きな私は今日も麻のワンピースを着ています。この植物には日頃大変楽しませていただいているわけです。嬉しいことに数日で小さな芽がでて、ぐんぐん成長しています。朝の日課、ベランダの水やりにはトネリコ、ユーカリ、月桂樹にフラックスが仲間入りです。120日で開花予定。「大きくなあれ~きれいになあれ~」願いを口にしながら可憐なブルーの花が咲く日を心待ちにしながら育てています。
本を読む感覚が好きで、子供の頃から読書を続けてきました。本の中では日常を離れ小さな旅をすることも、時間を遡ることもできます。また日常の暮らしのためのヒントやアイデアを発見することもできます。何よりも本には潜在的に人を癒す力があり、心理学の分野には「読書療法」というものがあります。今月はケアする人を応援してくれる本をご紹介します。
看護の母といわれているフローレンス・ナイチンゲール(1820~1910年)の著書、「看護覚書き」は看護学生の古典書であり、私自身も看護の道を志し、最初に開いた書物でもありました。看護師であれば誰もが知っている本ですが、もともとは「家庭看護」「家庭ケア」の本です。看護師ではなくても看護や介護をする人達にとって大切な方法が述べられています。「やさしい看護と介護のために ナイチンゲールに学ぶ家族ケアのこころえ」(素朴社発行)は「看護覚書き」からエッセンスを抽出し、日野原重明先生の解説と葉祥明さんのやさしい色でイラストが添えられています。「きれいな空気」「太陽の光」「静けさと音」「会話」「観察」など…。誰にとっても人生の中で遭遇するケアの心得が具体的に書かれています。もし、介護や看護で疲れてしまった時、ちょっと気分を変えたい時、大切な人が病気や介護状態になってしまった時、この本は今、していること、しようとしているケアの意味をそっと教えてくれてあなたを助けてくれるのではないでしょうか。
たとえば部屋を清潔に保ち換気をよくし風を送ることも、萎えかけた植物や人間を太陽の下におくことも、疲れた時、イライラした時、身の周りの不要な音を消し静けさを確保することも、みんな意味があります。看護は学問です。私自身にとってもケアの意味という原点に戻れることが、長くケアの仕事を続けていられる一つの強い力となっています。暮らしの中に当たり前のように存在している太陽の光に、きれいな空気に、清らかな水に、あらためて感謝し、その力をケアに使うことができます。自らも病と闘ったナイチンゲール。「看護覚書き」を知ることで、自然治癒力を見つめなおし、やさしいケアがきっとできるように思います。

こちらは心をみつめる本です。私自身はヨーガを長く続けています。ヨーガはインド5千年の秘宝、本当の自分を洞察する生き方、精神統一法です。「こころのヨーガ」(赤根彰子著書 アノニマ・スタジオ発行)は日々の生活をどのように送れば自由で幸せで平和に生きられるかという哲学的ヨーガや心理的ヨーガをわかりやすく教えてくれています。著者はインド政府公認ヨーガ教師、お父様は禅の研究家、作家である赤根祥道氏。ヨーガのポーズはひとつも紹介されていませんが、シンプルに生きることの大切さ、宝石を身につけることではなく、自分自身が宝石のように輝くことを問いかけてくれます。
私は朝晩ヨーガを続けることと、この本の気になるページを開いて何度も繰り返し読んでいます。複雑な気持ちの時、混乱しそうになっている時、不思議と気持ちが落ち着きます。そうしてまた静かに呼吸を整え、心を浄化し明日の暮らしに丁寧に向き合います。
私の13年間の看護、介護、そして8年に及ぶ日々のコンサルティング体験を綴った「介護生活これで安心」(小学館発行)は、高齢期の暮らしに必要な情報やノウハウを具体的に実践できるようまとめています。親や家族が歳を重ねることも、自分自身が歳を重ねることも、誰にとっても初めての体験です。戸惑って当たり前です。だからこそ具体的に高齢期にはどんなことが起こるのか、どんな方法で解決、工夫できるのかをなるべくわかりやすく説明しています。
「突然母が倒れ混乱していた時に偶然書店でこの本を手にし、一気に読みました。私と同じ状況の方がいて救われた気持ちになりました」「誰かに話したり、サービスを使ってよいのですね。一人で抱えて重かった気持ちがすーっと楽になりました」私の知らない方々がこの本を読んでくださっています。“一人で困らないで誰かに話してみましょう。ケアは人と人が向き合える尊い時間です”命に向きあい続けてきた私からの心のメッセージを感じていただけたら嬉しく思います。本を書いたきっかけや本への想いはこちらをご覧ください。
「介護生活これで安心」出版記念インタビュー
http://www.care-design.net/labo/kawakami0611.html
自分自身が元気になれる、自由になれる、気持ちが安らげる、静かに自分に向き合える、そんな方法を知っていますか?持っていますか?それは1冊の詩集であったり、ひとつのよい香りだったり、大好きなお花だったりするかもしれません。気持ち良く家族をケアするためのヒントはさまざまありますが、ケアが必要になった時、そしてちょっと元気がなくなってしまった時に、それらは自分自身を助けてくれます。人の助けを借りる勇気とともに、人に頼らないでも心や体が元気になれる方法を知っておくことも大事なことです。
ベランダの植物に水やりをするように、家族にお水を促すように、自分の心もよく観察し、きれいな水を毎日注いであげてください。