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野田市「健康づくり推進プロジェクト」の事業報告会

  • 野田市「健康づくり推進プロジェクト」事業報告会の様子1
    野田市「健康づくり推進プロジェクト」事業報告会の様子2

少子高齢化が進む中、健康への関心が年々高まっています。本来、個人で取り組むべき健康づくりですが、近年は介護保険に予防介護の考え方が導入されたこともあり、行政が市民の健康づくりに積極的に関与するようになっています。既にほとんどの自治体で、何らかの健康づくりプロジェクトが行われているようですが、第三者がその具体成果を知る機会は限られています。そこで今回は、千葉県野田市が取り組んだ「健康づくり推進プロジェクト」について、成果報告会で発表された内容を中心に、その取り組みをご紹介します。2007年5月26日(土)に開催された報告会では、
1) プロジェクト概要の説明
2) 実際に健康づくりに励まれた方の体験談発表
3) 今年度の計画や各健康づくり教室の案内
4) プロジェクト企画・責任者との質疑応答
が行われました。
当日は、同プロジェクトの健康づくり教室への参加者をはじめ、健康に関心のある市民約130名が集まりました。

○働き盛りの中年層を対象に加え、将来の健康づくり

日本人の平均寿命は、生活環境の改善や医学の進歩により、今や男性78.64歳、女性85.59歳に達しており(厚生労働省、2004年)、世界有数の長寿国となっています。長生きは歓迎したいものですが、高齢化に伴い要介護者数は増加の一途をたどり、また同時に急速に進む少子化により、現役世代の福祉コスト負担の増加が現実となっています。

平成12年からスタートした介護保険制度は、この負担増を抑制する狙いもあって、平成18年4月に改正され、介護予防への取り組みが重視されています。

千葉県野田市では、この制度改正を受けて、平成18年より同市独自の健康づくり推進プロジェクトを開始しました。介護予防は“もはや高齢者だけの問題ではない”との見地から、高齢者だけでなく中高年(40~64歳)も対象としたのが大きな特徴です。というのも、高齢期になって要介護となる大きな要因として、働き盛りの40代・50代における生活習慣病があるからです。「常に10年、20年後の自分の姿を想像しながら、高齢期に健やかに暮らしていけるよう、日頃から介護予防の意識を持った健康づくりを心がけてもらいたい」と、当該プロジェクトの趣旨を市民に訴えました。

○プロジェクトを支えるのは「相互扶助」の精神

この「健康づくり推進プロジェクト」は、「包括的健康管理支援システム」を基盤としています【図1】。健康づくり教室やスマートダイエット教室を通じて、自身の健康管理について学び、実践することで、まず自分自身が健康になります。加えて、市民の健康づくりを支え合う介護予防ボランティア(介護予防サポーター)になるための知識や技術も学びます。こうして、市民同士が積極的に関わって、地域の健康づくりを進めようというものです。

  • 図1_1
    図1_2

根本崇市長からは、「65歳以上だけでなく、将来を見据え、40代・50代からの健康づくりも念頭に置き、トータルで考えるように」、また「市民にご協力いただけるシステムに仕上げるように」との構築要件が、所管である同市保健センターに示されたそうです。

プロジェクトの推進に当たっては、同市のスタッフと、(株)THF(Tsukuba Health Frontier)という、地域の「健康寿命の延伸」や「活動的ライフの延長」を目指した活動を支援する専門企業と、二人三脚で企画・運営を行っています。同社は、自治体における高齢者の健康づくり事業をサポートする「インテリジェント・ヘルスケア・システム」と、“オーダーメイド減量プログラム処方システム”による「スマートダイエットシステム」を事業の柱とする筑波大学発のベンチャー企業です。そのノウハウは、筑波大学大学院 人間総合科学研究科 田中 喜代次教授の理論がベースになっています。今回の報告会でも、「プロジェクトのまとめ」は、体験談発表などを踏まえながら、田中教授が総括する形で行われました。

なお同社は、野田市が過去数十年にわたって継続実施している、市民の健康づくり啓発イベント「健康づくりフェスティバル」で、体力測定や食生活指導などのプログラムを提供する協力団体のひとつでした。そのため、同市高齢者福祉課や保健センターと当初から面識があったことから、当該プロジェクトに参加することになった訳です。

○ 市民の関心は高く、好調な申込で定員オーバー

本プロジェクト開始に際して、野田市は2006年5月にスタートアップ記念シンポジウムを開催して、広く周知を図りました。今回の報告会と同様に約140名が参加し、田中教授の基調講演やパネルディスカッションが行われました。その日のうちに各教室への申し込みが随分あったそうです。

スタートアップ記念シンポジウムの成功に加え、出席した市民の口コミもあり、短期間で健康づくり推進プロジェクトの周知は拡大しました。“自分ひとりで参加するのは気が引けるが、友人と一緒ならできそうなので”といったグループでの参加希望も増えて、「定員以上の応募でご迷惑をおかけしたこともあった」(保健福祉部保健センター長補佐・鈴木 孝 氏)そうです。申込が間に合わなかった場合は、必ず次期を案内するように心掛けていました。

この他、周知普及には、市の施設に設置したチラシや広報誌、民間発行のミニコミ誌を活用しました。もちろんホームページも利用していますが、Eメールでの申込みや問合わせは今後に期待といった状況です。「会社で普通にインターネットを活用している方々がリタイアする頃には、ネット利用が普及する」と見込んでいます。

○成果の最大の証は、発表者の満足げな表情
  • 野田市長 根本 崇氏
    野田市長 根本 崇氏
    介護制度にも精通しているため、「本プロジェクトの考え方」についての説明は、抜群の説得力。自身でリーダーシップを執っているという姿勢が伝わる

事業報告会では、まず冒頭で当該プロジェクトの概要が説明され、次いで根本市長から、「これから地域へ戻って来られる団塊の世代の方々にも、ご自身の健康づくりとともに、市民同士の応援であるサポーター制度をご理解いただきたい。そして、市民の健康づくりのための応援団になっていただければすばらしい」との挨拶がありました。

そして、成果報告と体験談発表です。まず各教室を担当したTHFのスタッフから、分析・統計データによる実施結果、教室開催中の事実経過そして自身の感想が報告されました。そして、体験者の代表が感想を発表する形で進められました。

  • スライド1
  • スライド2
  • THFスタッフによる成果説明
  • 各教室の成果説明は、THFスタッフにより、スライドを用いて行われた。
    「はつらつ教室」の他、会場まで来ることが難しい人のための「巡回教室」についての成果報告もあった。
○健康づくり教室

健康づくり教室は、教室の前後の体力測定や教室の中での運動の他、口腔ケアでは、ケアの仕方を習うと共に、食べ物を飲み込みやすくする体操も実施したと報告がありました。また、栄養バランスのよい食事を適量食べていただくために、栄養カードを用いた実習も行ったそうです。

THFのスタッフは、「参加者が、積極的に会話をされたり、楽しく運動をされたりしている姿が印象的でした。介護予防サポーター研修にも、この教室から18人も参加してくださった。自分の健康づくりだけではなく、家族や地域の方の健康づくりにも関心を持っていただけて、とてもうれしい」と発表していました。

  • 健康づくり教室 体験者
    体験者は「和気藹藹と楽しくやれたからなお良かった。ぜひ、みんなにも教えてあげたい」と発表

体験者は、自分の体力が思った以上に低下していることを思い知ったそうです。「目をつむって片足で立てと言われても、3秒も立っていられないんだから」と。体験談は、「以前は年中“イテテ、イテテ”といっていたのに、タオルの体操を教わってそれを実践しているウチに、痛みが無くなった。自分の筋力が伸びてきたかなぁと感謝している」と続き、「体操は、今もキッチンで続けているけど、無理しなくてできるということが一番イイんじゃないか」と分析していました。

○スマートダイエット教室

スマートダイエット教室では、「体重が平均6.4kg減」の発表に会場がどよめきます。実は教室の実施期間は6~9月、11~1月と、何かとせわしなく、また外食の機会も多いお盆と正月の休暇期間を跨いでいます。その間での6.4kg減ですから、来場者が驚くのも無理はありません。10人いたメタボリックシンドローム該当者は、教室終了後には1人に減少(残りの1人も、あと一歩で対象外)したそうです。体験者の表情には、ダイエットを達成した自信が表れており、それを見ただけでも、プログラムの有効性や教室の雰囲気が伝わって来るようでした。体験者が申し込んだきっかけは、人間ドックだそうです。もともと良い検査結果は出ないだろうと想像はしてけど、その結果があまりにもひどかっので、現場(病院)から即申し込んだとのこと。

  • スマートダイエット体験者
    体験者は「スタッフのおかげで、第二の人生が花開きました」と、とてもうれしそう。

体験者の1人は、「“短期間(3カ月)の我慢”と思えたことと、あとは、やさしいスタッフの励ましでどうにか続けられた。最終的には12kgのダイエットに成功し、今は血圧以外はすべて正常範囲に改善された」と発表していました。事細かな経過発表にはリアリティがあり、「参加してこんなにイイことがあるのなら、私も参加してみようかな」と、多くの出席者が思ったのではないでしょうか。

○ 介護予防サポーター研修
  • 介護サポーター研修 体験者
    第1期にはご自身が参加、そして第2期の研修には奥様が参加されたそうで、「この研修がきっかけで、夫婦のコミュニケーションの量も、以前より増えた」と話されていた。

参加者は、「(ご高齢の方に)運動を実践していただく際、どの位置に立っていたらサポートしやすいか」という、支援・補助の方法以外に、コミュニケーション、つまり会話の仕方についても学びました。また、今後ずっと続くサポーターとしての活動がどうあるべきかディスカッションしたり、はつらつ教室へも出向き、実習を行ったそうです。

体験談発表では、「サポーターと言っても、明日は我が身ということもあり得る。自身の健康は自身で守り、そして、互いにも助け合うという“相互扶助の精神”を常に持つことが一番大切」という言葉があり、本プロジェクトの理念が浸透したところを目の当たりにしました。

○「えだまめ体操」は、原案段階だというのにこの熱気

9月完成予定の「えだまめ体操」の原案発表が、オリジナル体操策定委員主導で行われました。参加者もみんな体を動かし、会場はすごい熱気です。

  • えだまめ体操1
  • えだまめ体操2
  • えだまめ体操3
  • 野田市介護予防オリジナル体操「えだまめ体操」原案発表シーン
○ 介護予防サポーター研修
  • 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 田中 喜代次教授筑波大学大学院 人間総合科学研究科 田中 喜代次教授 質疑応答
    筑波大学大学院 人間総合科学研究科 田中 喜代次教授
    市民からの意見に、事例なども交えながら丁寧に回答

報告会の締め括りとして、筑波大学の田中喜代次教授をはじめとする関係スタッフと、出席者との質疑応答の時間が設けられていました。
そこでは、「認知症を防ぐために、身体面だけでなく、精神面での訓練もしてもらえないか?」との意見が出されました。

田中教授は、「認知症は、食事・運動・薬だけで防ぎきれるものではなく、研究はまだ途中段階」と事実を前置きした上で、「脳の神経伝達物質であるセロトニンの分泌量が減ると、認知症や脳の機能が低下するようになります。予防するためには、朝早く起きましょう。20~30分で良いので太陽の光を浴びましょう。そして、豆腐などの植物性のタンパク質を摂りましょう。果物も適量摂りましょう」などと具体的なアドバイスを送りました。そして「認知症は、筑波大学では医学部の浅田先生が研究しており、成果が期待されています。今後良い情報があれば皆さまにお届けしたい」と、筑波大学の学術機関としてのリソースを公開、さらには市民への具体的なフィードバックを約束してくれました。出席者全員、とても心強く思ったことでしょう。

  • 楽しそうに会話する受講生とスタッフ
    報告会の前後には、受講生がスタッフと話そうと、歩み寄るシーンが随所に!

最後に田中教授は、「高齢期は仲間との交流を大切にして、老いを楽しむ時期。従来は“枯齢”だったが、今後は“華齢”です。野田市民の末永い健康長寿を念じ、そしてプロジェクト関係者に感謝の意を述べたい」と結んでいました。こうして報告会は終了しましたが、会場に残って開始前と同様に、教室のスタッフと近況報告などを楽しそうに会話する多数の参加者の姿がみられたことが印象的でした。教室への継続参加のモチベーションは、定期的にスタッフに会えることからも生まれるようです。

 

<コメント>

  • 保健福祉部保健センター長補佐 鈴木 孝氏
    保健福祉部保健センター長補佐
    鈴木 孝氏

本プロジェクトを担当している保健センターの鈴木氏は、まちづくりや駅前開発などの担当を経て、健康づくりに携わるようになったのは平成16年からだそうです。「個々の業務は異なりますが、健康づくりもまちづくりも根本は同じ」と見ています。「まちづくりは、道路を造るというハード的なこともあれば、緑をつくることもまちづくり。人の輪をつくるのもまちづくり。ですから、健康づくりもまちづくりなのです。市民の社会活動を快適にする目的に、変わりはないのです」と位置づけます。
従来、主催者となる行政は、助成制度や支援制度を市民へと一方向に提供するケースがほとんどだったように思います。しかし、野田市の健康づくりプロジェクトは、「市民に教え、市民を育て、そして市民同士が支え合う」コンセプトが示すように、行政と市民が双方向でまちづくり=健康づくりに取り組むシステムとなっています。今後、それがどれだけ機能していくのか、団塊世代が帰ってきた“まち”に、実際にどのような効果を生むのか、注目していきたいと思います。

取材協力/空間通信 兼平 真

概要

取材日 2007年5月26日(土) 10:00~12:00
会場 野田市役所8階大会議室
ホームページURL http://www.city.noda.chiba.jp/