介護マガジン
はじめての介護
ケアする人に必要なもの
今春、桜の蕾が開きかけた頃、静岡に住む家族が急に転倒し、緊急入院してしまいました。本人や家族は突然のことで体や心が痛み、不安でいっぱいです。白い空間の病室には、看護師や医師などケアの専門職がかわるがわる出入りします。私は、ナースとして13年間ベッドサイドで働いていた経験がありますが、ケアを受ける側の家族としての体験は初めてです。何人もの看護師が病室を訪れていますが、看護師さんによって病室の空気がぱっと明るくなる時もあれば、暗くずっしりと重くなる時もあり、その度に患者である父や、付き添いの母の表情や気持ち、痛みの具合、睡眠や食欲の状態にまでも大きく影響していることに気がつきました。もちろん、私も同じ気持ちでした。
ナース時代のことです。大学病院では毎朝、師長(婦長)が申し送りに並んだナース全員の顔やユニホーム姿を観察し、顔色の悪いナース、服装や髪形の乱れているナースに注意していました。「患者さんにそんな不快な顔を見せてはいけないでしょ。少し薄く口紅でも塗り自分の顔を見直してきなさい」「○○さん風邪ひいたの?自分の健康管理ができない人は患者さんのケアはできないわよ」毎朝、ナースステーションで師長がスタッフに繰り返し行っていることの真の意味が、父の入院という体験を通じて、今やっと心で理解できたような気がしました。
とてもシンプルなことですが、病室ではケアを受けている人や家族にとって、一人ひとりのスタッフの言葉、表情、しぐさなどから受ける影響はとても大きいものです。痛みや不安を抱える機会の多い高齢者や病人、障害者にとって、接する人の“基本的な元気”は大きく影響します。人とのコミュニケーションの場面では知識や共感能力、正確な情報、適切な技術など、さまざまなものが状況に応じて必要とされます。でも、高齢者へ接する時、特にケアの場面ではケアする側が“明るく健康的で元気なパワーを持っていること”が最も基本的に大切なのではないでしょうか。元気な方からは元気なパワーが伝わり、笑顔やあたたかい声がけは治療薬の効果を倍増させます。何よりもあたたかい笑顔は人をほっとさせます。暗い表情や冷たい態度は、人をいっそう不安、不快な気持にさせます。そうした悲しい体験はいつまでも覚えていたりします。
でも、さわやかで元気な笑顔は、精神的にも肉体的にも健康でなければなかなか保てません。もちろん、日頃の心のありようも影響します。
みなさん、今日は元気ですか?
新鮮な空気を吸って笑顔で輝いていますか?
誰かにやさしく接しましたか?
自分の体験を誰かに活かしていますか?
私達は働いたり、勉強したり、毎日めまぐるしく活動していますが、この世に生れてから死ぬまでいつも人と接しています。そして、哀しみや苦しみもたくさん受け止めています。ですから、今日の自分は元気かな?少し、自分が人に与える影響を意識して、笑顔や元気という宝物をコツコツと育てたいものですね。私自身も“美人”より“優秀な人”より感性の豊かな“元気な人”に魅かれていることに気づかされることがあります。
私が怒ると目の前の人も怒ります。
あなたが笑うと隣の人も笑います。
簡単なことではありませんが、小さな個人の気持ちや行動が、いつしか大きな輪に広がることを、私自身も心がけています。
長い時間病に伏していたナイチンゲールがケアする人に最も求めたものは
“体験したことのないことに身を置くことのできる感性”
5月のある日、東京大学医学部付属病院(東京都文京区)が取り組んでいる「接遇向上センター」主催の接遇講座にうかがいました。講座対象者は同病院の全職員。センターは思いやりのある患者中心の医療の実践として「あたりまえのことをおろそかにしない接遇」を大切にし、より患者側に立った対応をすることを目的に2006年4月に設立されました。
この日は外来接遇係からの実践の報告と、ナースをモデルに清潔感を与えるナチュラルメイクのアドバイスがありました。センター顧問のたけながかずこさん(http://homepage2.nifty.com/mothering/)は「患者様の命を引き出すためにも人の与える印象は大切」とケアする人の意識をあたたかく刺激。
プロとしての誇りが専門技術だけではなく、笑顔、挨拶、身だしなみ、コミュニケーションなど基本的な接遇にて表現されれば、より相互理解を深めることにつながるのではないでしょうか。
“ケアする人に必要なもの”を大切にし、自分達の力で実践している場所があること、同病院の素晴しい取り組みに驚き、また嬉しく感じた一日でした。

整容講座『笑顔・挨拶・身だしなみ』
尾谷美容師による職員のためのメイク・デモンストレーション風景
この日、榮木看護部長の爽やかなショートカットと明るく深い笑顔が私の印象に残りました。
さて、父はまだ現役開業医でもあり、今、多くの方々に支えられながら病院で懸命にリハビリに励んでいます。4月の良く晴れた週末、その日は家族全員で箱根に温泉旅行のはずでしたが、家族全員で病室の父をおそるおそるケアしていました。私はそれでも楽しんでいる小学生の姪や甥に、気持ちの良い清拭の方法や、マッサージの仕方を実践で教えていました。病室は足浴に使う微温湯に数滴垂らした精油(アロマテラピー)により、森林の爽やかな香りに包まれました。
来春、生まれてから84回目の桜が咲く季節には、美しい桜の姿と温泉に酔えるよう楽しくやさしい企画を考え直しています。私は少し遠い距離にいますが、一日も早く痛みが取れ、自分の力で大地をしっかりとまた歩けるよう強く祈っています。

Photo http://japan-geographic.tv/
『新緑と透明な湖』 撮影地:白神山地 十二湖
植物の力を借りるアロマテラピー
皮膚や鼻を通して直接成分が体に浸透していくので
心もリラックスできます。
「はじめての介護」をお読みになった方が少しでもあたたかく、やさしい気持ちになれるように、会社の先輩が自分の足で全国を巡り撮影している、美しい写真を添えます。


