介護マガジン
はじめての介護
ケアする人に必要なもの その2
夏が終わる前に…と休暇を利用し、特急スーパーあずさに乗って長野県の穂高に行ってきました。
松本駅で大糸線に乗り換え、アルプスの雄大な山並みを眺めながら新宿より3時間半で到着。案内された部屋にリュックサックを置いてから、さっそく木のテラスにごろんと大の字に寝転がると、緑の葉の向こうに白い雲がぐんぐん流れ、まるで夏雲が秋雲にせかされているようです。穂高にはもう、秋が訪れていました。
周囲の森林も、物の少ないシンプルな樹の施設も、注ぐ陽光も、凛としながら何かゆったりとしています。何よりも清らかな空気がおいしい!聴こえてくるのは風の音、葉のささやき、猿や鳥の鳴き声。あたりには森林の深い香りが漂い、天然のアロマに包まれています。
ここは豊かな自然に囲まれた北アルプスの山麓にある「穂高養生園」。からだと心のケアをする宿泊型治療施設です。からだにいい食事を摂り、適度にからだを動かし、ゆったりと休養をとること。「食、動、想」への総合的なアプローチが必要だという代表の福田俊作氏の想いから始まりました。
寝転がったらみえた…穂高の秋空。
「ホリステック・リトリート 穂高養生園」
http://www.yojoen.com/
とれたての野菜で創られた自然食を食し、散歩やヨガなどの適度な運動プログラム、アロママッサージや鍼灸、ゲルマニウム温浴などのトリートメントを受け、心とからだのケアができる施設です。豊かな自然の中でゆったりとくつろげば、日ごろのストレスから解放され、自然治癒力が高まります。アメリカの統合医療の第一人者、アンドリュー・ワイル氏などさまざまな専門家によるワークショップも行われています。
以前、ケアデザインプラザでコンサルティングを受けられたお客様に、こんなお話をされていらっしゃる方がいました。介護の経験者で聡明なあたたかいお人柄の女性です。「ケアを受ける人が利用できるサービスは多いけれど、ケアする人が病気になってしまう前に休養できる、シンプルで健康的にリラックスできるところはないのでしょうか。豪華な食事や部屋は必要ないのです」。この方の体験・想いから発せられたこの言葉は、それから私の心にずっと残っていました。ケアする人をケアするって大切なことなのになかなか無い。封じこめられがちな介護者の想い。私もそう感じていたからです。
自然治癒力やホリスティック医学(※1)は私自身も大きなテーマとして持ち続けているものでもあり、今回の体験はとても楽しみにしていた念願の旅です。
陽が沈んでから天然温泉につかっていると、気さくなスタッフさんより「今日は星空がきれいですよ」とうれしい情報。さっそく毛布に身を包み、園に隣接したまっ暗なハーブ畑にでかけると、群青色の空にまばたく無数の星。透き通った空気の中で首の痛みを我慢しつつ何時までも見上げる星空は、涙が出るほどきれいでした。“毎日こんなに星空がきれいだったら、夜空を見上げる楽しみがあって世の中の悲しい事件が少しは減るのになぁ…”と、大きな流れ星を見ながら思いました。
食事は一日2回。空腹が食欲を増します。“なんでも『間』は重要だなぁ…。”園でとれた野菜を手間暇かけながら、食べる人の健康を考えて作られた玄米菜食。からだを内側からきれいにし、自然治癒力を高めます。厨房で懸命に食事作りをしている若いスタッフの姿からも元気をもらいます。こうしていると普段はなかなかできませんが、暮らしを丁寧につくることの贅沢さをしみじみと感じます。“この食事…からだが喜んでいる!”
※1 ホリスティック医学=人間の心とからだを分けずに丸ごと全体で見る医学
過食気味の現代人に必要なのは「引き算の栄養学」。ここでは不要な中性脂肪や代謝産物(毒素)を体外に出すための、デトックスを目的とした「玄米菜食」を厨房スタッフが作っています。
「よーし、ひとつでも自分の暮らしに生かすぞぉ」と厨房の“かなさん”からとびっきり美味しかったトマトスープのレシピをうかがってきました。土鍋で3種類のハーブを入れてコトコトと煮込みます。
そして、ここではなにもしない時間が存在します。そこに居るだけでからだが解放され五感も開き、元気になっていくのがわかります。私自身も忙しい毎日で責任を果たそうとし、少し本来の自分より、なんだか前のめりになっていることに気がつかされました。“ふう、深呼吸…私、これで良いんだっけ?”
私たちは毎日さまざまな人に出逢い、関わりあいながら暮らしています。
自然の中に身を置いてみると知らず知らずのうちに誰かに、何かに合わせて、素の自分を解放してあげる時間が少ないことに気がつきます。家庭も仕事も人間関係も、簡単には捨てられないことばかりです。
時にはからだや心に耳を傾け、ありのままの自分であることもとっても大切です。
写真中央に注目。お散歩していたら突然猿が何匹もでてきました。
至近距離1.5メートル。「ど、どうしよう、死んだふり?わーわー」…お猿の家族は栗の木をゆさゆさ揺らして食べ放題。秋の味覚を満喫したら森の中へ去ってゆきました。
先のご相談者にはこんな穂高養生園での過ごし方もご提案のひとつとしてさせていただきました。
私たちの住まう現代の社会には、残念ながら“ケアする人をケアする”空間やサービスは少なく、自分で工夫し探していくしかないのです。ケアする人には長期的なパワーが求められる上、常に気を張り詰め「がんばらなくっちゃ」と緊張も伴っています。そして切なさも…次々と体験した事のない状況や問題が発生します。
誰かのためにがんばることも必要ですが、時には自分のからだや心に耳を傾け、緩ませてあげないと自分の健康は保てません。
ケアする人に必要なもの、それは休養です。そんな視点でのナチュラル・シンプルなヘルスケアサービスや空間がもっと増えてほしいのですが、まずはその意識を持つことが大切。気持ちよく介護するためにも、こんな時間を作ってほしいと感じます。そして、私たちの誰もが、自分で自分を良い方向にもってゆける『自然治癒力』という素晴らしい力があるということも意識しましょう。
今、全国で介護にかかわっている方々(ご家族も、ケアを仕事に選んでいる方も)が、季節の変わり目ごとにでも、自分と向きあう時間を大切にすることができますようにと願います。
朝摘んだばかりのフレッシュハーブが入った、誰もがいつでも自由に飲めるように準備されているハーブ水はとても爽やかです。
養生園の生活ではカフェインフリー。カフェインを抜くことで、感覚が研ぎ澄まされてゆくそうです。
アロマテラピールームも天然木やインドの布をあしらった心地よい空間。この無垢材のテーブルを囲んで問診が行われます。
この日の体調や気持ち=「毎日パソコン作業が多く忙しい日々なので秋らしくしっぽりと落ちつきたい」と曖昧な要望を伝えると、ローズウッド、サンダルウッド、マージョラムの精油をブレンドしてくれました。とても気分の落ち着く香りです。ナチュラルセラピスト・みわさんの手を通じて、人と植物の力がじわじわと皮膚から浸透してゆきます。ハンドパワーに感謝しながら、からだも心もゆっくり癒されてゆきます。静かな時間でした。
穂高養生園代表の福田俊作氏の体験や想いは、出版されている「穂高養生園の週末ごはん」でもご紹介されています。体験や想いがシンプルに形となって人々に提供されていることにも感動しつつ、感謝しつつ、あらためて人の持つ力の素晴らしさを実感した旅となりました。そして私自身も常に考えている「病む」「治す」「介護する」「年齢を重ねる」とはどういうことなのか…。あらためて考えさせられる時間となりました。自分のからだや心は自分で守る。また週末にリュックを背負い、出かけてみようと思っています。
参考文献 「穂高養生園の週末ごはん」著:福田俊作+穂高養生園スタッフ/主婦の友社
